俺様外科医と偽装結婚いたします
「あらあら、嬉しいわ。知っていてくれたのね。それならぜひ今度、食べに来てください」
「ありがとうございます。近いうちに必ず」
お祖母ちゃんと彼の可もなく不可もなく続く会話に、しかも来店の約束までしていることに、私はたまらず視線を落とした。
本当に彼は、何を考えているのだろうか。
環さんの様子をうかがいながら必死に考えているうちに、もしかしたらと一つの仮定にたどり着く。
この場は、波風を立てずにさらりと流すつもりでいるのかもしれない。
断りの文言は店を出たあと、銀之助さんとふたりになった時に言えばいい。
そんな風に考えているとするのなら、猫をかぶっているような態度なのも、なんとなく腑に落ちた。
それならそれで、ここは私も当たり障りなくやり過ごすことにしよう。
マイペースに黙々と食事を続けることへと気持ちが傾いた途端、横から肘で小突かれた。
「咲良! 食べてばかりで、環さんと話をしたらどうなの? 何か聞きたいことくらいあるだろ?」
「えっ……聞きたいこと?」
顔を上げた瞬間、環さんと目が合った。すると彼は口元に笑みを湛え、大らかさを感じさせるような口調で話しかけてきた。