俺様外科医と偽装結婚いたします
環さんはゆるりと首を振りながら、やんわりとお祖母ちゃんの言葉を否定した。
私のことをフォローしてくれたことに驚きでいっぱいになっていく。
「やっぱり銀之助さんのお孫さんね。素敵じゃないの」
お祖母ちゃんは、環さんから視線を逸らせずにいる私の背中を嬉しそうに叩いてから、改めるように姿勢を正した。
「環さん、今日はこうしてお会いできて本当に良かったわ。これを機に、これから咲良と仲良くしてやってちょうだいね」
「……はい。こちらこそ……もちろん咲良さんが嫌でなければですが」
嫌味など感じさせないくらい爽やかに、むしろ乗り気なのではという印象を強く与えるほど心のこもった声音で、彼がそう答えた。
それはお祖母ちゃんだけでなく銀之助さんにとっても、百点満点の返事だったのだろう。
「あらやだ。よく見たら結構お似合いじゃないの!」
「そんなの最初から思ってましたよ。次からふたりで会いなさい。環、今すぐ約束を」
「そうだわ! まずはうちの店にも食べに来てちょうだい。仕事帰りでも構わないからね」
などと、二人が興奮気味に喋り出し、一気に室内が賑やかになっていく。
しかし環さんは、口元をほころばせている銀之助さんをちらりと横目で見やったあと、小さなため息を吐いた。
そこから切なさや苦しみを感じ取ってしまったことで、思わず顔が強張っていく。
すぐに環さんも、自分を見つめる私の視線に気付いたのだろう。
ほんの少し表情に厳しさを滲ませて、こちらをじっと見つめ返してきた。
共有しているようで、本当は噛み合っていないさまざまな感情に翻弄されそうになりながら、私は唇をきつく引き結んだ。