俺様外科医と偽装結婚いたします
二章、ほどける気持ち
とりあえずの婚約者
心が乱れている時こそ、早朝のひとときがとっても貴重な癒しの時間となる。
河川敷へ通じる階段に差し掛かったところで、私はいつものように足をいったん止め、大きく背伸びをした。
環さんたちとの食事会から、何も起きることなく三日が経過してしまった。
翌日、お礼も兼ねて店にやってきた銀之助さんは、変わらず私と環さんの仲を取り持とうとしていて、否定的な話など少しも出なかった。
それからお母さんが、結婚式はどんなドレスが良いかしらなんて言い出したため一気に話が盛り上がり、結果、私だけが付いて行けず、取り残されることとなる。
このままでは本当に結婚まで話が進んでしまう。
自分のウェディングドレス姿を思い浮かべ震えた身体を、力いっぱい抱きしめた。
想像の中の自分の隣に、環さんがしれっとした顔で立っていたためだ。
「ありえない……絶対ない!」
恐怖を感じながら呟き数秒後、ざっざっと規則正しく駆けてくる足音を耳が拾う。
慌てて視線を巡らせると、すぐに環さんの姿を見つけた。
今日はこのひと時が癒しとはかけ離れたものになりそうだ。
私は覚悟を決めたあと、大急ぎで階段を下りた。
本当は話したくなどないけれど、自分だけではこの事態を処理しきれなくなりそうな強い予感に、意固地のままでもいられない。