俺様外科医と偽装結婚いたします
環さんの出方次第ではあるけれど、ここは手を組み、現状打破のための作戦を練るべきではと思うのだ。
小道まで来て、私は姿勢を正し、小さく咳払いする。そして環さんの方へと身体を向け、ちょうど目の前まで迫って来ていた彼に話しかけた。
「環さん。お早うございます。ちょっとお話がしたいのですが……って、ちょっと!」
環さんは私をちらりと見たものの足を止めることはせず、そのまま目の前を走り抜けていった。
「無視しないで! ちょっとくらい待ちなさいってば!」
大きく叫んでから、私はむきになり彼を追いかけ出す。
環さんも私が付いてきていることにもちろん気づいているようで、すぐに走るスピードを上げ、あっさりと私を置いて行った。
「あの男、ほんと信じられない!」
文句を呟きながら追いかけるのを止めようとしたけれど、結局私はそのまま走り続けることを選択する。
環さんはこれからどうするつもりでいるのか。なにか考えがあるなら、私にもちゃんと話しておいてほしい。
そんなモヤモヤした気持ちが、諦めることを許さなかったのだ。
しかも、ここで彼に会うのは、初めてストーカー呼ばわりされたあの日以来である。
連絡先ももちろん知らないため、今このチャンスを逃したら、またしばらく彼と話すことは叶わないだろう。