俺様外科医と偽装結婚いたします
「私の家族も、銀之助さんだって、このまま私たちの話がまとまることを望んでる。どうして話が出た時、断らなかったんですか? これからどうするつもりですか? 何か考えでも?」
質問を重ねた時、すっと上昇した彼の視線に捉えられ、思わず鼓動が高鳴った。
「どうする? ……俺はどうするつもりない。このまましばらく、お前が婚約者でいれば良いと思ってる。その方が俺には何かと都合がいい」
数秒、目を見開いたまま、環さんと見つめ合ってしまった。
「……つ、都合がいいって。そもそもあなたと……好きでもない人と婚約なんて、絶対無理!」
頭の中が真っ白になり、理解が追い付かないままそう返すと、環さんが組んでいた腕を解き、私の腕を掴んできた。
「俺の考えは、今言った通り現状維持だ。嫌なら、そっちで断ってくれ」
私から断る。逆に突きつけられた言葉で、頭にお祖母ちゃんの不満げな顔が浮かび、わずかに息苦しくなる。
「咲良こそ、そんなに喚くなら、なんでもっと早く断らなかった」
「それは……お祖母ちゃんが乗り気で」
「たとえそうであっても、お前が強く断っていれば、うちの祖父さんも事を進めるのを躊躇ったはずだ。お前はそうしなかった……そうできなかった別の理由があるんじゃないのか?」