俺様外科医と偽装結婚いたします
実は三日前、配達先から帰る途中、自転車同士でぶつかりそうになった。
避けようとした私は縁石の溝にタイヤをとられ転倒し、右足首を捻挫してしまったのだ。
「見てるこっちが痛々しいんだよ。それに土日は陸翔の彼女が店の手伝いに来てくれるらしいし、折角だから咲良も身体を休めるか……もしくはデートでもしてきたらどうだい?」
得意げに飛び出した二回目の提案に小さく呻いてから、私は「店の前、掃除してきます」と告げてお祖母ちゃんの傍を離れた。
店から出て、温かな日差しの中で両腕を伸ばしながら、動揺している気持ちを落ち着かせるように深呼吸した。
環さんと私の関係は、お祖母ちゃんたちの中でいまだ進行形なのである。
連絡しろと言われても、そもそも相手の携帯電話番号を知らないため無理な話だ。
だからといって、知らないと気付かれてしまえば、互いの番号が銀之助さん経由でやり取りされるという面倒なことにもなりかねず、言葉選びに慎重になってしまう。
私は自宅車庫の奥にある物置きから箒を引っ張り出して、目だったゴミも落ちていない店先を掃き始めた。
通りの向かい側では若い女性がふたり立ち話をしていて、その周りでふたりの小さな子供も楽しそうに追いかけっこをしている。