俺様外科医と偽装結婚いたします
そして、ご近所に住んでいてコスモスの常連さんでもある六十代の男性が、ちりんちりんと自転車のベルを鳴らし、挨拶の言葉と共に私の目の前を通り過ぎていった。
挨拶を返しながら平和な日常を噛みしめる中、一際大きく響いた子供たちの笑い声につられるようになんとなく目を向け――……ハッとする。
男の子が追いかけてくるもう一人の子から逃げるように、道路へと飛び出してきたのだ。
お母さんふたりは話に熱心になっていて、すぐ傍まで車が迫ってきていることに気づいていない。
咄嗟に状況を理解し、私は箒を手放した。
車に気が付き、その場で身を竦めた男の子へと私は両手を伸ばし、庇うように抱きしめた。
車のブレーキ音が響き渡り……程なくして、私の腕の中にいる男の子が大声で泣き始めた。
顔を青ざめさせて近づいてきた男の子の母親だろう女性と、同じく表情を強張らせながら車を降りて来た中年の男性が、口々に「大丈夫ですか?」と問いかけてくる。
それに笑顔で頷き返すと、男の子が母親の元へと走っていく。
大事に至らなかったことにホッと安堵し、私は立ち上がった。
瞬間、感じた痛みに視線を落とし、歯を食いしばる。今の無茶で、足首がずきずきとより強い痛みを放ちだす。