俺様外科医と偽装結婚いたします
なにか嫌味を言ってくるだろうと思わず身構えたけれど、窓の外を見つめている環さんは表情を曇らせたままだった。
「傍に行くべきか迷ったけど、もう会うことはないって断言していたし、変に接触を持たない方がお互いのためだろうって納得して……その場を離れたことずっと後悔していた」
自分を責めるような声音で、彼からそっと告げられた事実に思わず鼓動が跳ねた。
環さんが私を見た。真剣な眼差しに息をのむ。金縛りにあったみたいに、動けない。彼から目も逸らせない。
「だから二度目は迷わなかった」
じっと見つめ合っていると、ふっと彼が自嘲気味に笑った。
「三度目がないことを祈る」
私も口元にわずかに笑みを浮かべながら、そっと言葉を返す。
「気をつけます」
環さんは頬杖をついて窓の外へと視線を戻し、私は視線を床へと落とした。
肩の力を抜くと一緒に、警戒心まで解けていく。
どちらも口を閉ざしているからか、こうして傍にいても不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
それどころか、まったり穏やかに時間が流れているように感じてしまう。
三度目の災難が自分の身に降りかからないことを、私も祈ってる。
そして二度目の今に、少しだけ感謝している自分がいる。
最後にもう一度、環さんと言葉を交わせて良かった。