俺様外科医と偽装結婚いたします

初めて目にする彼の字


店に戻って来たのは救急箱を抱えたお祖母ちゃんだけじゃなかった。

お母さんと陸翔まで、環さんに挨拶をしに自宅から店へと降りて来た。

賑やかな中でも、環さんは動じることなく、感心するほど紳士的に振る舞い続けた。

そしてあっという間に私の足の怪我に処置を施すと、用は終わったとばかりに彼はすぐさま店を去ったのだった。

案の定、環さんを初めてみたお母さんと陸翔は、彼がいなくなった後もしばらく興奮を隠せなかった。

男前だから仕方がないとは思う。けれど、同時に私に対する期待もうなぎのぼりとなってしまい、余計辛くなる。

その日の午後来店した銀之助さんに、お祖母ちゃんが御礼を言うと、当然ながら銀之助さんも嬉しそうに顔をほころばせ、頬を高揚させていた。

お祖母ちゃんを中心に、店の常連客を巻き込んで楽しそうに沸き立つ様子を見せられて、私は良心の呵責に苛まれ続けたのだった。

きっともう、環さんがこのお店に姿を現すことはないだろう。

彼と私のこれ以上の接触は無いのだから、もうしばらく我慢していたら、お祖母ちゃんたちの興奮も冷め、徐々に諦めの気持ちへと変化するはず。

それまでの我慢だ。

そう自分に言い聞かせながら、もうすぐ二週間が経とうとしている。

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