俺様外科医と偽装結婚いたします


「お待たせいたしました」


お決まりの窓際の席に静かに座っている銀之助さんの前に、ゆっくりとコーヒーを置くと、すぐに銀之助さんが微笑みかけてくる。


「ありがとうございます」

「ごゆっくりどうぞ」


銀之助さんが変わらず頻繁にお店に通ってくれていることは素直に嬉しい。

しかし、その度欠かさず環さんのことが話題に上がるからか、なかなかお祖母ちゃんとお母さんの熱が冷めずにいるのは困りものである。

しかも銀之助さんは、ただ単に浮かれているお祖母ちゃんたちとは少し違うのだ。


「咲良さん。少しよろしいですか?」


テーブルを離れようとしたところですかさず銀之助さんに呼びかけられ、私はドキリと鼓動を高鳴らせた。


「……は、はい。なんでしょう」

「環から話は聞いていますか?」

「……えっ、と……あのー……」

「あぁ。やはり、聞いていないようですね」


どう答えるべきか戸惑った私をじっと見つめたまま、銀之助さんが不満げにそう続けた。

失敗したと狼狽えそうになるけれど、それが顔に出ないように、必死に平常心を装う。

時々銀之助さんは、私と環さんの現状を探るように、鋭い質問を投げつけてくるのだ。

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