俺様外科医と偽装結婚いたします
心を込めて最後の一言を追加させ、だから安心してくださいと訴えかけるように作り笑いを浮かべてみせた。
うさん臭そうな顔をしてから、彼は両腕を組む。ため息と同時に、わずかに肩の力を抜いたように感じた。
「俺の走り? なんだよそれ」
「言葉通りの意味です! あなたくらいのペースで走れるようになるのが、私の今の目標で……ただそれだけなんです」
「へぇー……分かった。その言葉、半分だけ信じてやる。けど、それは俺じゃなくても良いはずだ。足が速いやつは他にもいるんだから、そっちを追いかければいい。だから金輪際、俺の視界に入ってくるな」
言葉とは逆に、彼の心に私の言葉はまったく届いていないようだった。
正直に打ち明けたのにと思うと、悔しさが募っていく。
彼をペースメーカーにして走っていたのは、もちろん偶然タイミングが合った時だけだ。
待ち伏せしたことなど一度もないというのに、少しも揺るがない疑いの眼差しに、私もカチンときてしまった。
「なによその言い方! こっちだってもう二度と、あなたとなんか関わり合いたくないわよ!」