俺様外科医と偽装結婚いたします
取り返すと同時に、お祖母ちゃんがスマホに視線を留めたまま、顎をしゃくった。
「今ここで、電話をかけておきな」
「いっ、今!? ……い、今だときっと電話には出ないんじゃないかなぁ。……そうね。夜に……時間があったら」
言いながら、そっとポケットにスマホを戻そうとしたけれど、寸でのところでお祖母ちゃんに腕を掴み取られてしまった。
「ダメダメ。咲良の事だから、後回しにしたらどうせかけないだろ? だから今なんだよ。電話に出なきゃ、留守伝にでも残しておくと良い」
「そうですね。着信だけ残しておいてもらっても良いですよ。あとで話がスムーズに進むように、誕生日パーティの話を咲良さんにしたことを環に伝えておきますから」
銀之助さんの言葉を聞きながらお祖母ちゃんは力を弱め、そのまま私の腕を開放する。
皆の視線が自分に集中する中で、スマホをポケットに戻す勇気などない。
操作しようと指先で触れようともしてみたけれど、結局私は耐えきれず、スマホから顔を逸らした。
探したところで、電話帳に環さんの連絡先など無い。
だからこれ以上、誤魔化すことはできない。
「咲良。あんたまさか、実は連絡先を交換してなかったなんて言わないよね。だってあの時、ふたりで……」