俺様外科医と偽装結婚いたします
お祖母ちゃんも、私の様子から気付いたらしい。信じられないと言った様子で口を大きく開けている。
まさかと驚くのも無理はない。食事会のあと、別れ際に環さんが私の元にやって来て、念のためにと連絡先を交換するふりまでしていたのだから。
「環から連絡先を聞いていないのですか?」
銀之助さんから少し厳しめの声音で問われ、やや間を置いてから、私は項垂れるようにこくりと頷き返した。
「そうでしたか。それでは無理なお願いをしてしまったようですね」
ふうっとため息を吐いたのち、銀之助さんはいつもの朗らかさを取り戻す。
「分かりました。すみませんが、少し待っていてください」
にこりと微笑みかけられているのにもかかわらず、ほんの少しの恐怖を覚えた。
これから、面倒なことになるかもしれない。
その予感は自分にというよりは環さんに対してのもので、「環さん、本当にごめんなさい!」と私は心の中で謝罪を繰り返した。
+ + +
「いらっしゃい……ませ」
その日の夜、オーダーストップまであと三十分と迫ったところで、うんざりしているようにも、気まずそうにも見える顔のお客様が来店した。