俺様外科医と偽装結婚いたします
「わ! 環さん、いらっしゃい! 仕事帰りですか? 何か食べますか?」
厨房で調理しながらも気づいた陸翔が、すぐさま嬉しそうに声をかける。
「えぇ、仕事帰りです……ビーフシチューをお願いします」
環さんは入口近くのテーブルに広げ置かれたメニュー表へと視線を落とし、すぐに注文を口にする。
そして「かしこまりました~!」と明るく返事をした陸翔へと軽く微笑みかけてから、彼は私へと顔を向ける。
「……空いているお席へどうぞ」
ぎこちなく言葉をかけると、彼は口を開くことなく気だるげに歩き出す。
環さんとはあれが最後のはずだった。
けれど、こうして姿を現したということは、銀之助さんになにか言われたに違いない。
昼間しでかした出来事が頭の中に鮮やかに蘇り、再び彼に対して申し訳なくなっていく。
くしくも銀之助さんお気に入りの窓際の席に着いた環さんの元へと歩み寄り、私は無言のままお冷をテーブルに置いた。
自然と目が合い数秒後、彼が小声で囁きかけてきた。
「お前、俺に何か言うことあるだろ」
「……私も頑張ったの! けど、うまく誤魔化すことができなくて」