俺様外科医と偽装結婚いたします

慌てて陸翔に向かって愛想笑いを浮かべてから、私は環さんへと向き直った。


「分かりました」


すっとエプロンのポケットへと手を入れようとした時、からんとドアベルが鳴り、反射的に視線を移動させる。


「いらっしゃいませ……菫さん、川元(かわもと)さん、こんばんは!」


店に入ってきた常連さんの男女ふたりに対し顔を綻ばせると、こちらを見た彼らがそろって驚きの表情を浮かべた。


「環!?」

「久郷先生!?」


そしてふたりは急ぎ足で環さんのテーブルへとやって来て、そのまま彼の向かい側の席に並んで腰を下ろした。


「珍しいな。外食はあまりしないくせに」

「本当。珍しいですね」


ほんの一瞬面食らってしまったけれど、菫さんと川元さんが加美里病院で働く医師であることを思い出せば、すぐさま気安さの謎も解けていく。


「環、何頼んだ?」

「ビーフシチュー」

「ビーフシチューいいねぇ。でも今日は……陸ちゃん! カツカレーひとつ!」


環さんに問いかけつつも、川元さんが陸翔へと好物の一品を注文すると、それに続いて菫さんも「私も! ふたつね!」と声を張り上げた。

私もすぐに動き出す。


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