俺様外科医と偽装結婚いたします
トレーにお冷をふたつ乗せてテーブルに戻ってくると、川元さんが私を見上げながら、自分と環さんを交互に指さした。
「俺とこいつ、同期なんだ」
「そうだったんですか」
川元さんはだいたい菫さんと一緒に来店される。
すらりと細長い環さんと比べて、川元さんは筋肉質で逞しさあふれる体つきをしていて、パッと見は真逆だけれど、私にはどちらの顔つきも賢そうに見えた。
「で、私の先輩」
菫さんが環さんとの関係を教えてくれたことで、ふっと好奇心が湧き上がってくる。
「環さんは、病院ではどういった感じなんですか?」
「……えっ?……そ、そうね……久郷先生は」
驚いた様子で私を見上げてから、菫さんがわずかに首をかしげて言葉を探す。
やっぱり患者さんに対してはあの偽りにしか思えない紳士的な態度で接するのだろうか。
同僚に対しては、どっちなのだろう。
私が知っている冷たい彼そのままなのか。それとも優しいという言葉が飛び出すのか。
心を高鳴らせながら菫さんの返答を待っていると、「おい」と環さんが囁きかけてくる。
「聞いてどうする」
「どっちなんだろうって、気になって」
「どっちってなんだよ」
「礼儀正しいのか、それとも……非情で冷徹なのか」