俺様外科医と偽装結婚いたします
眉根を寄せた環さんへと声を潜めて告げると、川元さんが大きく笑った。
「十であるときもあれば、零であるときもある。時と場合によって、見事に使い分けてるってことだな。さしずめ、俺に対してで言えば……八対二。ちなみに、どっちが二かは恐ろしくて言えない」
最後に小声で追加された言葉がすべてを物語っているかのようで、私もつられて笑みを浮かべると、環さんが不満そうに割って入ってきた。
「お前ら、俺に喧嘩売ってるのか?」
問われて思わず肩を竦めると、ほぼ同時に川元さんも同じような動作をした。
意識せずに息の合った行動をとったことに気付いて再び笑っていると、陸翔が環さんのビーフシチューを持ってやって来た。
「環さん、お待たせしました!」
陸翔は嬉しそうに環さんの前に料理を置くと、きびきびした足取りで厨房へと戻っていった。
しかしすぐに、サラダとコーヒーを両手で持って、環さんの元へ再びやってくる。
「これもどうぞ~!」
セットでの注文はしていないはずだ。その証拠のように、環さんも自身の前に並べ置かれた二品に戸惑うような表情を浮かべている。
「陸翔! サラダとコーヒーは注文してないよ!」