俺様外科医と偽装結婚いたします
環さんはビーフシチューへと匙を入れようとしていた手を止め、菫さんへと視線を向ける。
「いや。初めてきた」
「……初めてなんですか?」
「あぁ。そうだ」
「その割にはずいぶんと親しげじゃないか? ……特に、咲良さんと」
菫さんの質問には動揺する素振りすらなくさらりと答えた彼だったが、川元さんからの質問には、面食らった顔をしたまま時間が流れていった。
もちろん私もドキリとさせられた。
この流れだと私ではなく、サービスすると言い出した陸翔の名が上がる方が自然に思えたからだ。
「俺は誤魔化せないぞ。非情で冷徹って言えるってことは、咲良さんはそれなりに環を知ってるってことだ。ふたりともいったいどこで知り合ったんだよ」
思わず環さんへ顔を向けると、彼も同じように私へと視線を上げた。
視線を通わせ数秒、私たちは答える気などないことをアピールするように、川元さんに対してそれぞれにそっぽを向く。
「おいおい。君たち」と川元さんが呆れ声を発する中、空気を察することなく陸翔が得意げにひと言述べた。
「ご縁は銀之助さん。ってことで良いですよね!」
余計なことを言わないでよと陸翔に不満の眼差しをぶつけると、さすがの陸翔も何かを察したらしく、表情を強張らせた。