俺様外科医と偽装結婚いたします
けれど、すぐに三人が声を潜めて話し始めたことに気づいてしまうくらいに、そこから気持ちを切り離すことは難しかった。
「いい加減、環に結婚する気が無いことに気づいているだろうに、院長も懲りないなぁ。あと何回見合いさせるつもりなんだろう」
「久郷先生はどうするつもりなんですか? 咲良だって、いろいろ大変なんです。可哀想だから、これ以上巻き込まないであげてください」
「分かってる」
微かに聞こえてくる川元さんと菫さんの声。それに環さんのため息が続いた。
来店したお客様を席に案内し、同時に注文を受けたあと、自然に目が環さんへと向いてしまう。
味気ない様子でビーフシチューを口に運ぶ環さんの表情は、どことなく疲れているように見え、少しだけ胸が痛み出す。
ああして座って食事をしているのも、彼が望んだことでない。仕方なしにそうしているだけ。
そんな風に考えただけで、心の中が苛立ちと切なさでいっぱいになっていく。
じっと見つめていると、不意に環さんと目が合った。
気まずさから視線を逸らすと、今度は厨房に戻った陸翔の不満そうな眼差しに捉えられた。
私は天を仰いでから僅かに肩を落とし、お店の仕事に集中することにした。