俺様外科医と偽装結婚いたします
俯きがちに泣き言を返すと、彼が小さく息を吐いた。
「分かった」
私はぱっと顔を上げ、口元に笑みを浮かべた。
「ありがとう。意外と話が分かるのね、良かった」
早速トレーから、伝票と千円札だけを取り、レジを打つ。
他の客にもそうするようにニコニコ笑いながら環さんにお釣りを返すと、彼はそのままトレーの上に残っていた千円札と小銭のおつりをレジの横にある募金箱へとすべて投入した。
「これなら、誰も文句ないだろ」
唖然としていると、彼がわずかに口角を上げてみせた。
ひとまずお会計を終えれば、彼はそのまま私に背を向けて店を出ていくだろうと思っていたけれど、なぜか彼は私を見下ろしたまま、その場から動こうとしなかった。
どうしたのか目で訴えかけると、環さんがわずかに口を開いた。
しかし思い留まるように、自分のいたテーブルへとちらりと目を向け、残されたふたりがこちらを気にしていることに気が付くと、彼は眉間にしわを寄せる。
「……環さん?」
「このまま帰ったら、来た意味がない」
環さんは手元に残っているレシートへと視線を落とすと、何かをひらめいたように、募金箱の傍に置かれているペンスタンドからボールペンを機敏に掴み取った。