俺様外科医と偽装結婚いたします
レシートの裏側にさらりと何かを書き込むと、私を見てにやりと笑いかけ、トントンとレシートを指先で叩いてみせる。
「美味しかった、ご馳走様。……弟君にも伝えておいて」
それだけ言って、彼は回れ右をし、足早に店を出て行った。
何気なく視線を落とし、視界に入ってきた文字に私は目を大きくする。
「なぁなぁ、今、弟君って聞こえたけど」
すぐ後ろから聞こえてきた声に反応し、彼が残したレシートを隠すように勢いよく両手を乗せた。
「……姉ちゃん?」
「お、美味しかったって。良かったね、陸翔。ほんと良かった!」
「まじで!? やったぁ!」
喜ぶ陸翔を横目に、私はレシートをこっそり掴み取る。
秘めるように手の中へと潜めた紙切れに視線を落とすと、とくりと、確かに鼓動が高鳴った。
お客さんのひとりがお会計をしようとレジに向かってくる姿に気が付き、それを慌ててエプロンのポケットに隠した。
『俺に電話して』
レシートの裏に書かれていた彼の綺麗な字と、そこに添えられた携帯番号の断片が脳裏に浮かぶたび、どうしてか頬が熱くなる。
環さんからのメッセージを意識せずにはいられないままに、私はレジ前にやって来たお客から伝票を受け取ったのだった。