俺様外科医と偽装結婚いたします
甘く戸惑う
閉店後、店の掃除を終えて自室に戻ってから、二十分が経過した。
私はその間ずっと、手に持ったスマホだけでなく彼のメモとも睨めっこをし続けている。
いざ電話をかけようとすると心臓が大きく脈打ち、緊張で手が小刻みに震えてしまうのだ。
「ただ電話を掛けるだけ。緊張するような相手じゃないってば!」
自分自身をたしなめてから、「よし!」とベッドの上で正座する。
書いてある数字を震える指先で押し、真剣な面持ちでスマホと向き合った。
やっとの思いで通話ボタンに触れると、スピーカーから呼び出し音が聞こえ、程なくして、ぷつりとその音が途絶えた。
「……はい」
低く響いた男性の声へと、さらに緊張を募らせながら私は話かけた。
「環さんですか? あの……私、今井咲良です。今日はコスモスにご来店下さって……いろいろありがとうございました」
ぎこちなく言葉を繋げていると、私が誰か理解したかのように彼が「あぁ」と囁く。
「電話、待ってた……あと五分遅かったら、寝てたかもしれない。眠い」
「遅くなって、すみません」
謝罪しながらも、気持ちが落ち着かなくて妙にそわそわしてしまう。