俺様外科医と偽装結婚いたします
後に続いた言葉を聞けば、そこに特別な意味など無いことが分かるのに、『電話、待ってた』という言葉が耳に残ってくすぐったい。
「早速だけど、祖父さんの誕生日パーティー……なんとか避けられないかと頑張ってみたけど、無理そうだ。友人を多く呼んでる。祖父さんのことだ、それとなく俺たちの話もしてるに違いない。そこに顔を出さなかったら、祖父さんの顔に泥を塗ることになる……って、俺が考えるだろうことまで、きっと計算済みだろうな」
「銀之助さんって、優しくて穏やかな人だなってずっと思ってたけど……それだけじゃなかったのね」
「今頃気付いたか」
ふっと、電話越しに環さんが笑った。それにつられて、私の口元に笑みが浮かんだ。
「どうするつもり? 丸く収めるための案は浮かんでる?」
「……悪いけど、今回だけこの茶番に付き合ってくれないか」
「それ、本気で言ってるんだよね?」
思わず確認すると、すぐに彼が「あぁ」と肯定した。
「今までこんな無茶な手を使ってくることはなかったのに。お前、相当祖父さんに気に入られてるんだな」
彼が言うように、気に入られているかどうかまでは自分ではよく分からない。
けれど、私自身は銀之助さんとのお喋りをとっても楽しく感じているのは事実である。