俺様外科医と偽装結婚いたします
スマホを胸元へと押し当てて、そのままごろんとベッドに横になった。
明日はどんな一日になるだろう。
……そう思う私は、本当にどうかしている。
胸の奥に確かに存在しているキラキラと輝く感情を否定しても、頬の熱はなかなか冷めることはなかった。
+ + +
「……それじゃあ、行ってくるね」
外へ出ようとドアへ伸ばした手を止めて、私は店内を振り返り見た。
「はいはい。環さんにくれぐれもよろしくね」
常連の五十代の男性と話をしていたお祖母ちゃんがすぐに反応し、軽やかに言葉を返してくれた。
少し遅れて、カウンターの前にいたお母さんと陸翔も私へと顔を向ける。
「行ってらっしゃい」と明るい声が揃ったあと、ふたりの間からショートボブの髪型の女性がひょこっと顔をのぞかせて、微笑みと共に「お気をつけて」と可愛い声を響かせる。
私も陸翔の彼女へと笑顔を返すと、まるで止まっていた時間が動き出したかのように、三人はメニューへと視線を落とした。
お母さんが伝票に何かを書き込みながら説明するのを、陸翔の彼女が相槌を打ちながら耳を傾け、陸翔がそれに寄り添っている。
店内にもお祖母ちゃんと常連さんの笑い声が響き、賑やかさが増していく。