アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
えっ? 誰も居ないはずなのに……どうして?
のぼせて幻覚でも見たのかと慌てて立ち上がったのと同時に引戸が開き、浴室に入ってきた人物と目が合う。
「あ……」
そこに立っていたのは、全裸の並木主任だった。一瞬頭の中が真っ白になり、自分も裸だということを忘れて立ち竦む。
「いつまで入ってんだよ。待ちくたびれたぞ」
平然と掛け湯をして湯船に入ってくる並木主任を呆然と見つめていたが、彼の「いい眺めだな」の一言で我に返り大絶叫。
「ギャ~っ!! なんで勝手に入ってくるんですかーっ! 変態! スケベ!」
胸を手で隠しお湯に浸かると彼に背を向ける。
見られた……並木主任に全裸を見られた。そして私も見てしまった。並木主任のアレを……
羞恥と動揺。そして興奮とのぼせ。全てが重なった時、人は体に変調をきたす生き物なのだということを、私は初めて知った。
激しい動悸に襲われ上手く呼吸ができない。そうこうしていると胸が苦しくなってきて全身が痺れてきた……そこから先のことは、意識が朦朧としてよく覚えていない。
――んっ……冷たくて気持ちいい……
そう感じて薄目を開ければ、頬にひんやりとたモノが乗っかっていて、手探りでそれを確認していると頭上から並木主任とおばあちゃんのヒソヒソ話しが聞こえてきた。
「断りもなく入って行っちゃダメだよ」
「やっぱ、マズかったか……」
「当たり前だよ~でも、驚いてぶっ倒れるくらいだから、脈はないね」
おばあちゃんは、私が並木主任のことが好きじゃないから、ショックを受け倒れたんだと力説していた。