アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
「簡単な打ち込みはミスする。ガキみたいにピーマンを残す。指示に従わず長靴を忘れる。挙句の果てに仕事放棄か……今度の助手は使えねぇな」
その一言が私の負けず嫌い魂に火をつけた。
「仕事放棄なんてしてません! こんな山道くらいヒールだって登れますよ!」
しかし並木主任は首を振り、この靴では無理だからここで待っていろと言う。でも、あんな言い方をされたら引き下がるワケにはいかない。どうしても同行すると食い下がると……
「ほう、根性はあるんだな。だったら、これに着替えろ」
並木主任がトランクから取り出したのは、黒のジャージ。
「えっ? 着替えろって……まさか、ここで?」
「スカートで登るつもりか? まぁ、俺はそっちの方が嬉しいが……」
「ぐっ……」
ったく、パワハラの次はセクハラ? 何が"付き合いたい男ナンバーワン"だよ。ただの人使いの荒いスケベ男じゃない。
結局私は車の後部座席でのた打ち回ってジャージに着替えたのだけれど、よく見れば、このジャージは有名ブランドのレディースもの。
成分研究部には女性の研究員も居るから借りたのかな? だったら、汚さないように気をつけないと……
気合いを入れて車から降りるも、並木主任は「やめるなら今だぞ」って冷めた視線を私に向ける。
何よ、今更。こうなったら意地だ。
「やめません!」と怒鳴り、細い山道を登り出したのだが、普段、運動らしいことは何もしていなから三十分も歩くと既に限界。息が上がって足が縺れる。それに、ヒールに蔦や草の根が引っ掛かって何度も脱げそうになる。