アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
「あの後、料亭の中居さんに聞いたんだよ。私達が居た部屋の前で、スーツ姿の男性がずっと立っていたとね。つまり、並木主任は偶然通り掛かったのではなく、暫くあの場所の居た。そうなんだろ?」
「それは……」
確かに、私が並木主任を見つけた時、彼は部長が居る部屋の前に立っていた。でも、だからと言って彼が山辺部長達の話しを盗み聞きしていたとは限らない。
すかさず否定して有り得ないことだと抗議した。すると部長が真剣な顔で私を凝視し「おかしいと思わないか?」と低い声で問い掛けてくる。
何がおかしいのかと問い返すと部長は、自分にやましいところがなければ、潔白を証明しようとするのが普通だ。しかし並木主任は一切、申し開きはしなかった。その結果が今回の異動だと力説する。
「要するに、並木主任は自分の非を認めたってことだ。きっと、あの料亭でも他社に流す情報を収集をしようと私達の会話をコッソリ聞いていたんだろう」
その話しを聞き、ふと頭に浮かんだのが、並木主任のスーツのポケットに入っていたボイスレコーダーのこと。
あのボイスレコーダーを見つけたのは、料亭に行ったすぐ後だった。並木主任は私の手からボイスレコーダーを奪い取り、録音を聞いたかと凄い形相で迫ってきた。もしかしたら、あの中には部長達の会話が入っていたんじゃあ……だから私には聞かれたくなかった?
いや、ボイスレコーダーなんて誰でも持っている。私ったら、何考えてるの?
一度は傾き掛けた気持ちを引き戻し、並木主任を疑った自分を恥じる。