アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

しかし電話を掛け直してくれた栗山さんの声は沈んでいた。


『おかしいなぁ……今、パソコンで社員名簿見てるんだけど、並木って名前の社員は居ないのよね……』

「えっ? それ、どういうこと?」

『うーん……考えられるのは、その並木さんって人はもうバイオコーポレーションの社員じゃない……退職しているんじゃないかな?』


うそ……並木主任、会社を辞めちゃったの?


愕然としてスマホを持つ手が震える。自分でも驚くほど動揺が大きかった。


「じゃあ、辞めたかどうかは? 調べられる?」

『あ~ごめん。社員じゃない人の個人情報は検索できないことになってるの。退職者名簿は人事部長の許可がないと閲覧できないのよ』


その後、電話を唯に代わったのだけれど、目の前で話している唯の声は全く耳に入ってこなかった。


並木主任がバイオコーポレーションを辞めた? 疑われて居づらくなったから辞めたの? それとも解雇になったの?


あっ……もしかしたら、あの彼女がへき地に着いて行くのを嫌がったのかも。それで並木主任はバイオコーポレーションを辞めた……もしそうなら、並木主任は会社を捨てて彼女を選んだということなる。


それほど彼女が大事……愛しているってことだ。そうだよね、結婚しようと思ったくらいだもの。当然のことなのかもしれない。


今までは、並木主任の居場所が分からなくても、同じ会社の社員だと思っていたから、なんとなくまだ繋がっているような気がして忘れられずにいたけれど、いよいよその繋がりもなくなった。でも、私にとっては良かったのかもしれない……

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