アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

えっ? 八神常務って……根本課長は何を言ってるの? 常務は大嶋常務でしょ?


困惑しつつ様子を窺っていると、根本課長が大嶋常務の名が刻まれたプレートを手に取り、もう片方の手に持っていたプレートをデスクの上に置く。


後ろから覗き込み確認すると、真新しいプレートには"八神常務取締役"の文字が……


八神と言えば、バイオコーポレーションの社長の名前も八神だったよね。でも、常務が替わるとなれば、当然、事前に報告や発表があってしかるべき。なのに何もないなんておかしくない?


でも、最大の疑問は、根本課長が並木主任を八神常務と呼んだことだ。もしや根本課長は、八神常務の顔を知らないんじゃあ……


「八神常務が急遽帰国すると聞き、すぐにプレートを発注したのですが、間に合わず申し訳ありませんでした」


そう言って再び頭を下げる根本課長を見て確信した。


やはり課長は大きな勘違いをしている。並木主任を八神常務だと思っているんだ。


そのことを言うべきか迷っていると、椅子にふんぞり返っていた並木主任が体を起こし、デスクの上に置かれたプレートをボールペンで突っつきながら根本課長をチラッと見た。


「別にプレートなんてどうでもいいよ。そんなことより、その話し方、やけに他人行儀だな。今まで通りで構わないんだぞ」


えっ……並木主任と根本課長は顔見知りなの? だったら彼の名前が並木だって知っているはずなのに、どうして……


ワケの分からない疑問がてんこ盛りで私の頭はパンク寸前。と、その時、根本課長が「当然です!」と大声を張り上げた。

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