アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
呆れた……どんな凄い秘密かと思ったら、それ? 今はあんなに偉そうにしているのに、昔はただのヘタレ少年だったのか……
「八神さんはそのことを今でも奥さんにバラされたくなくて、早紀ちゃんに『一番、大切な女との約束を守る為だ』って言ったらしいよ」
……一番、大切な女?
「俺、それを聞いてピンときた。八神さんの大切な女って、姉貴のことだろ?」
「あ……」
昨夜、八神常務が話していたこととその言葉がリンクして心がザワつく。でも、翔馬の問いに素直に頷けなかった。
きっと私はこれ以上、傷付きたくないと気持ちが逃げていたんだと思う。だから期待するのを恐れていた。
「もうこの話しは終わり。ちょっと早いけど、なんか食べる?」
無理やり話題を変え、ほぼ空の冷蔵庫の中に唯一入っていた卵と牛乳でフレンチトーストを作り、久しぶりに翔馬と食卓を共にする。
小さい時から私が作るフレンチトーストが大好きだった翔馬は凄い勢いで食べ始め、あっという間に完食。満足気に微笑むと聞いてもいない早紀さんとの馴れ初めを話し出した。
ふたりが知り合ったのは、半年前。一度だけ八神常務が日本に帰国したことがあり、その時、食事に誘われて約束の店に行くと早紀さんも一緒に来ていた。
翔馬より二歳年上の早紀さんは、偶然にも翔馬と同じ大学の学生だった。それが縁で時々学食で待ち合わせをしてランチをするようになり、一ヶ月後には付き合っていた。
「八神さんは俺達の愛のキューピットなんだ」
「愛のキューピット? 随分、年取ったキューピットだね」