アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
向こうも仕事中だし、プライベートな電話には出ないのかもしれないな……
諦め電話を切ろうとしたのだけれど、スマホのディスプレイをタップしようとした時、微かに声が聞こえてきた。
よし! 出た。でも、ここからが重要だ。
沈んだ声で「山辺部長の声が聞けてホッとしました」と言うと『新田君かね? どうした?』となかなかいい反応を示したので、間髪入れず、研究所に戻りたいと声を震わせる。
「実は……もう会うことがないと思っていた並木主任が本社に居たんです」
『そのことなら私も聞いたよ』
「えっ……山辺部長、ご存じだったんですか?」
『うん、今朝、上層部の役職異動の連絡を受けて並木主任が社長の養子になって常務に就任したと聞いて驚いたよ。いったい何が起こっているのか、こちらでは全く分からなくてね……困惑していたんだ』
山辺部長は、"並木主任"が社長の養子になった経緯をしつこく聞いてくる。しかし詳しいことは私もよく分からないと適当に流し、いよいよ本題に入る。
私が深刻さをアピールしつつ訴えたのは、架空のセクハラとパワハラ。八神常務に無理やり体を触られたり、暴言を吐かれたりしていると言うと、山辺部長が直接会って話しを聞きたいと言い出した。
『私は単身赴任だからね、土日は家族が居る東京に戻るんだよ。新田君が良ければ、そっちに帰った時に詳しい話しを聞かせてくれないか? 本当に常務がセクハラらパワハラをしているなら大問題だ。新田君の元上司として許せない』