アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
あら、山辺部長って意外にいい人……と言いたいところだけど、八神常務より自分本位で自己中な山辺部長に"元上司として許せない"なんて言われると気味が悪い。
ゾワゾワと鳥肌が立ったが、感謝しているフリをして週末の土曜日に会う約束をした。
電話を切り、これで八神常務も文句はないだろうとドヤ顔で親指を立てると、八神常務が駆け寄って来て嬉しそうに私の頭をクシャクシャと撫で回す。
でも、改めて山辺部長が言っていたことを伝えると、八神常務の目付きが変わる。
「山辺部長は、俺が常務になったことを知っていたのか?」
「はい、社長の養子になったのも知ってましたよ。どういう経緯で養子になったんだって何度も聞いてました」
「それは妙だな。確かに俺が常務に就任したことは支社や各地の研究所に告知されたが"八神愁"という社員が常務になったと知らせただけで、それが研究員だった"並木愁"だとは明かしていない。
それに、俺が社長の養子になったことを知っているのは、本社でも一部の人間だけだ」
それはつまり、今回の常務就任や養子の件を誰かが山辺部長に知らせていたってこと。
「しかしこれで本社に内通者が居るってことがハッキリした。それだけでも大きな収穫だ」
少し笑顔になった八神常務が再び私の頭を撫でる。
「でも、お前、なかなか演技力があるな。特に俺からセクハラやパワハラを受けているって訴えていたところは感情が籠っていて良かったぞ」
「あ、いえ、あれはほぼ事実ですから。演技じゃありません」