アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
『それに、八神って社長と同じ苗字じゃない。ねぇ、並木主任っていったい何者なの?』
「あ~それは、ちょっと……」
自分から話しを振っておいてなんだけど、たとえ唯でも、今は事情を話すワケにはいかない。いずれちゃんと説明すると濁して話題を変える。
「それより、私、どうしたらいいと思う?」
『どうするもこうするもないっしょ? ずっと好きだった人が一緒に暮らそうって言ってくれてるんだよ。素直に受け入れればいいじゃない』
「それが純粋な愛情じゃなくても?」
『はぁ? 純粋じゃない愛情ってどんな愛情よ? 意味分かんない』
やっぱり、全てを話さないと理解してもらえないか……
結局、唯とは最後まで話しが噛み合わず、お互いモヤモヤした気分で電話を切った。
――そして答えが出せないまま週末を迎え、いよいよ今日は山辺部長と会う約束をした土曜日だ。
待ち合わせの場所は、新宿のオーガニックレストラン。ひとりで行けると言ったのに、八神常務がソニックシルバーのレクサスで近くまで送ってくれた。
「以前、乗っていた社用車のバンとは大違いですね」
車を降りる直前、車内を見渡し呟くと八神常務が苦笑する。
「だな、俺はバンでも全然良かったんだが、社長がそういうワケにはいかないだろうって用意してくれたんだ。そんなことより、上手くやれよ」
「分かってます。任せてください」
とは言ったものの、本当は緊張で足が震えていた。引きつった笑顔で八神常務からボイスレコーダーを受け取り車を降りると、深呼吸をしてオーガニックレストランが入っている商業ビルを目指して歩き出す。