アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
「八神常務は社長の養子になり、将来を約束された人物だ。独身女性には魅力的なはず。それに、八神常務が本社に戻る時、新田君はまだ八神常務に未練があったはずだ」
敵もさるもの痛い所を突いてくる。確かに一年前、会議室で山辺部長に八神常務はやめた方がいいと言われた時、私は未練タラタラだった。
「なのに、今は顔を見るのもイヤだと言う。そこまで彼を毛嫌いするからには、何か事情があるんじゃないかと思ったんだよ」
山辺部長の疑惑の目が探るように私を凝視する。この状態で目を逸らせば、ここで話しが終わってしまうかもしれない。そんなことになったら私はただの無能な役立たずの女になってしまう。
そんなの私のプライドが許さない。きっかけは無理やりでも、やると決めたのは私だ。何かしらの情報を手に入れるまでは意地でも帰れない。
一気に本気モードに突入した私は、山辺部長を真っすぐ見据え、声を上げて笑った。
「山辺部長、女心を全く分かっていませんね。女性はどんなに好きな相手でも一度イヤになれば、とことん嫌いになるものなんです」
「そ、そうなのかね?」
「八神常務は私と付き合っていた時、他に女が居たんです。その裏切りを知った時、彼への愛情は奇麗サッパリ消え失せました。私にとって八神常務はもう過去の人。その女と別れたからよりを戻そうだなんて……調子のいいこと言ってんじゃねぇよ!!」
迫真の演技で思いっきりテーブルを叩くと、山辺部長がビクッと体を震わせ大きく仰け反る。