アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

「わ、分かったから、落ち着いて……」


山辺部長が辺りを気にしながら怒り狂った私をなだめようと必死だ。その様子に心の中でほくそ笑み、調子に乗ってとどめの一言を吐き出した。


「今は他に好きな人が居ますからっ!」


しかし勢いで言ってしまったこの一言が、山辺部長の興味を引いてしまった。


「ほーっ、好きな人が? それは八神常務より魅力的な男性なのかね?」

「当然です! その人に比べたら、八神常務なんてへですよ」

「へ……かね?」


山辺部長は私が好きになった人物のことをしつこく聞いてくる。が、いつまでもこんな話題で貴重な時間を潰すワケにはいかない。


早くこのどうでもいい会話を終わらせて、なんとしても情報漏洩の証拠を掴まなくては……でも、ここまで絶賛したからには、八神常務以上に立派な人物で、尚且つ地位も名誉もある人じゃないと説得力に欠ける。


「あっ、えっと……大嶋専務です」

「えっ! 大嶋専務?」


以前、常務だった大嶋さんは、八神常務が常務に抜擢された後、昇進して専務職に就いていた。


「大嶋専務は厳しい方ですけど、八神常務と違って真面目で紳士的ですからね。なんと言っても品があります」

「なるほど……」


大嶋専務の名前を出したとたん急に静かになった山辺部長が納得の表情で頷く。


「では、この先、大嶋専務と八神常務の間で後継者争いが勃発したら、新田君は大嶋専務側に付くってことか……」


後継者は既に社長の養子になった八神常務と決まっている。それを知っていたが、当然ここはイエスと答える場面。

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