アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

「新田さんも来てたんですか?」


元木さんが有名化粧品メーカーのロゴが入った光沢のあるペーパーバッグを私に見せ、テンション高くピースサインをする。


このイベントは最新コスメの発表会だそうで、商品を購入すると人気モデルと一緒に写真が撮れるという特典付き。それを目当てに若い女性達が集まっていた。


「あ、いや、私はたまたま通りがかっただけで……」

「そうなんですか。さっきまで栗山さんも居たんですよ。栗山さん、あのモデルの大ファンで、チークやリップを買ってワクワクしながら列に並んでいたのに、電話が掛かってきたら急に帰るって……」

「えっ、こんなチャンス滅多にないのに帰っちゃったの? よっぽど急ぎの用だったんだね」


特に深く考えることなくそう言うと元木さんが小声で「きっと、男ですよ」ってニヤリと笑う。


「うそ、栗山さん、彼氏居たの? 誰? 私の知ってる人?」


本当は私にも、速やかに八神常務に結果を報告するという急用があったんだけど、栗山さんの彼氏のことが気になってつい聞いてしまった。


「それがですね、誰が聞いてもどんな人なのか教えてくれないんですよ。だから秘書課の人達は不倫してるんじゃないかって噂してます」

「えぇっ! 栗山さんが不倫?」

「あ、私が言ったって言わないでくださいね」

「う、うん、分かった」


でも、驚いたな。あの真面目な栗山さんが不倫だなんて……彼女も色々あるんだ。

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