アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
確かに言えと言われた覚えはないが、言うなと言われた記憶もない。それにあれは、話しの流れでそう言った方が説得力があると思ったからで、実際、上手くいった。
「八神常務の味方じゃないってことを証明する為に大嶋専務を好きだって言ったんです。それの何がいけないんですか?」
「バカ、俺が言ってるのはそんなことじゃない」
何それ? バカとか言われたし……
納得いかず、分かるように説明して欲しいと迫るが、なぜか八神常務は口をへの字に曲げ仏頂面で私を睨んでいる。だから私も負けじと睨み返した。
そして無言で睨み合うこと数秒。急に視線を逸らした八神常務がソファーに座ったまま天井を見上げ、独り言のように呟く。
「……俺の気持ちの問題だ」
「八神常務の気持ちって?」
すると再び私を睨んだ八神常務が、半ばやけクソって感じで怒鳴った。
「例え嘘でも、お前が他の男を好きだって言ったことが気に入らなかったんだよ!」
「えっ……」
ちょっと待って。それって、嫉妬? 私が大嶋常務を好きだって言ったから嫉妬してるってこと?……いやいやいや、私、自分のいいように解釈してない? 八神常務が私に嫉妬するなんて有り得ないでしょ?
自問自答を繰り返しなから後退り「冗談はやめてください!」と裏返った声で叫ぶと、八神常務が呆れたように息を吐く。
「いい加減気付けよ。鈍感……」
私が鈍感? うぅん、それは違う。私は何度も期待しては裏切られ傷付いてきた。だからもうこれ以上傷付きたくなくて自分の気持ちに蓋をして一生懸命、鈍感になろうとしてきたんだ。