アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
プルプルと首を振る私に、八神常務が静かに問い掛けてくる。
「お前、俺に聞いたよな。俺が好きな女はどんな人だって……」
頭の中は混乱してたけれど、そのことはハッキリ覚えていた。あの時、八神常務が言ったのは――
『俺が好きな女は、笑った顔も怒った顔もめっちゃ可愛いぞ。まぁ、ちょっとヌケてるところがあるが、そこがまたいい。一緒に居て全然飽きないからな』――
そしてこうも言っていた――『それに、俺と出会うまで誰とも付き合ったことがなかったんだ……』って……えっ? ええっ?
これ以上、開かないというくらい大きく目を見開くと、八神常務が優しい目をしてフッと笑う。
「あれは、お前のことだ」
「あ……」
あの時は、私が処女だとバレていないと思っていたから、てっきり早紀さんのことを言っているんだと思っていたけど、実際は私が男性経験がないってことを母さんに聞いて知っていたんだ……
「……じゃあ、あの頃から八神常務は私のことを?」
「あぁ、まさか、俺が見境なしに女を抱き締めたり、ましてやキスしたり……そんなことを平気でするようなヤバい男だと思っていたんじゃないだろうな?」
「はい……思ってました」
他の男性ならないなって思うことでも、八神常務なら有りかもって思ってしまうくらい彼は常識外れの人だったから……
「なっ、誰が好きでもない女の為に自分の名前や人生を変えてまで約束を守ろうとする? お前が好きだから、お前の喜ぶ顔を見たかったから、俺は決断したんだぞ」