アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
八神常務に下の名前で呼んでもらえた……ただそれだけのことなのに、堪らなく嬉しい。
その後、私達はすれ違っていた時間を取り戻すように何度もお互いの名を呼び、キスを交わし、愛を確かめ合う。
そして情事が終わった後も離れることができず余韻に浸っていると、愁が私を強く抱き締め言ったんだ。
「少し遅くなったが、メリークリスマス。最高のクリスマスプレゼントだ」と――
私も最高のクリスマスプレゼントを貰った。一年前の涙を忘れるくらい素敵なプレゼントを……
と、その時、開けっ放しなっていたドアの向こうから、私のスマホの着信音が聞こえてきた。
「電話鳴ってるぞ」
上半身を起こした愁がリビングの方を指差すが、この幸せな時間を終わらせたくなくて彼の腕を引っ張りブンブンと首を左右に振る。
「今はまだ……このままがいいの」
「ほぉ~お前がそんな甘えん坊だとは知らなかったな」
愁は含み笑いで茶化すようにそう言うとベッドから起き上がり、ガウンを羽織って寝室を出て行く。
そして既に切れてしまった私のスマホを持って戻って来たのだけれど、その顔からは、さっきまでの妖艶な表情は消えていた。
「おい、起きろ」
「どうしたんですか?」
愁の様子が一変したことに驚き起き上がると、私にスマホを手渡し着信履歴を見ろと言う。
「俺が手に取った瞬間に切れたんだが、表示されていた名前は、間違いなく山辺部長だった」
「うそ……」