アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

慌てて確認してみると、本当に山辺部長からの電話だった。


愁に今すぐ掛け直せと急かされ、勢いでディスプレイをタップしてしまったが、もし、こっちの企みがバレていたらと思うと怖くてスマホを持つ手に汗が滲む。


二回目のコールで電話に出た山辺部長は、私の周りに誰か居ないか用心深く何度も確かめようやく話し出す。


『……少し込み入った話しをしたいんだが……いいかね?』


やっと聞き取れるくらいの小さな声に「はい」と返した後、通話をスピーカーに切り替えた。


『今から話すことは、絶対に口外しないと約束してくれ』


意味深なその言葉に心臓がドクンと大きく跳ね、一気に緊張が高まる。


「約束します。それで、話しってなんですか?」


いよいよ本題に入る……と思いきや、その前にもうひとつ確認したいことがあると言う。


『新田君は、八神常務が本社から居なくなればいいんだろ?』

「えっ、あ、まぁそうですが……」

『君が私に協力してくれれば、八神常務を失脚させ会社から追い出すことができるんだけどねぇ』


遂に山辺部長が本性を現した。私と愁は作戦が上手くいたことを確信し、顔を見合わせ無言でガッツポーズをする。そして逸る気持ちを抑え、何をすればいいのかと訊ねると……


『医薬品部門に関する情報を流して欲しいんだ』

「えっ……」


バイオコーポレーションが海外の製薬会社と新たな合同会社を設立し、医薬品業界に参入しようしているということは、まだ公表されていない。上層部しか知らない情報をどうして山辺部長が……

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