アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

これには愁も驚いたようで、切れ長の目を大きく見開き動揺している。


「医薬品部門のこと……誰に聞いたんですか?」

『んっ? まぁそれは、色々とね……』


山辺部長は、詳しいことはまだ言えないが、八神常務が代表を務める合同会社の情報を教えてくれれば、私の望む展開になるだろうと気味悪くククッと笑う。


山辺部長の次のターゲットが愁が苦労して立ち上げた合同会社だと分かり、怒りが込み上げてくる。


「……分かりました。山辺部長に協力します。それで、どんな情報が必要なんですか?」


しかし山辺部長は詳細は語らず、改めて連絡すると言って電話を切った。すると愁が苦々しい表情で舌打ちをして唇を噛む。


「面倒なことになったな……」

「……ですね。でも、私、上手くやりますから。任せてください」


とは言ったものの本当は自信なんてなかった。でも、もう引き返せない。ここまで来たらやるしかないんだ。


そう決意して気持ちを奮い立たせたのだが、やはり気になるのは、誰が山辺部長に情報を漏らしたかってこと。


「とにかく、会社では私達の関係を知られないようにしないといけませんね。山辺部長の仲間がどこで見てるか分からないし」

「そうだな。お前、我慢できないからって俺に抱き付いたりするなよ」

「なっ、会社でそんなことしませんよ!」


真面目な話しをしているのに、すぐ茶化すようなことを言うのは相変わらずだ。


呆れて冷めた視線を向けると愁が急に押し黙り、羽織っていた毛布ごと私を抱き締めた。その弾みで持っていたスマホが手を離れ宙を舞う。

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