アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
そしてベッドの上に落ちたスマホが羽毛布団に吸い込まれるように沈むと、音のない寝室に愁の「……気を付けろよ」という声が響く。
「紬が俺の味方だと分かれば、お前も標的にされるかもしれないからな」
愁は私のことを心配してくれている……そう思ったから素直に頷いたのだけれど、なんだろう……このモヤっとした違和感は?
そのモヤモヤはリビングに戻った後もずっと続いていて、愁が入れてくれた芳醇な香りのする美味しいコーヒーを飲んでも一向に解消されなかった。
ソファに深く座り、言葉少なにコーヒーを飲んでいると、今度はローテーブルの上にあった愁のプライベート用のスマホが鳴り出し、ディスプレイを確認した彼の眉間にシワが寄る。
その表情のままスマホを耳に当て「うん」とか「あぁ」とか、暫く気のない返事を返していたが、通話を終えると気怠そうに立ち上がった。
「ちょっと出てくる」
「えっ……どこへ?」
「社長の家だ」
電話の相手は社長の奥さんだったらしく、話しがあるから今から家に来るようにと言われたそうだ。
「はぁ~清子(きよこ)さんに話しがあると言われると憂鬱になるなぁ……」
本当にイヤそうにため息を付く愁の姿を見て、翔馬が早紀さんに聞いたと言っていたあの話しを思い出す。
そっか、愁は昔から社長の奥さんが大の苦手だったんだ……
愁が気乗りしないと言いつつ出掛けると、私はまたソファーに腰掛け残っていたコーヒーを飲もうとしたのだけど、カップが唇に触れる直前で手が止まり、再びあの違和感が心の中で燻り始めた。