アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
「あ、それと、早紀のことなんだが、実は早紀も千尋と同じで俺とは血の繋がりはないんだ」
「えっ? でも、早紀さんは親戚だって……」
「あの時はそう言った方が説明する手間がはぶけると思ったから、手っ取り早く親戚って言ったが、早紀も清子さんの姪。早紀の父親は清子さんの兄なんだよ」
「じゃあ、早紀さんと根本課長は……いとこ?」
ってことは、翔馬と早紀さんが結婚したら、あの根本課長と親戚付き合いしなきゃいけなくなるんだ……うわっ! それはちょっと厄介だなぁ……
複雑な気持ちになるが、根本課長が社長宅に居た理由が分かってスッキリした。
「昨日は親戚の集まりだったんですね?」
「んっ? まぁそんなとこだ」
軽く頷いた愁が腕時計に視線を落とし、ゆっくり立ち上がる。
「そろそろ会議の時間だな」
あっ、そうだった。話しに夢中になって役員会議のことすっかり忘れてた。
慌てて会議の資料を揃えて愁を送り出す。その後、私も秘書課に戻ろうとしたのだけれど、意に反して私の足はドアではなくソファーに向かっていた。
愁が座っていた同じ場所に座ると微かに彼の香りが残っていて、堪らず背もたれに顔を埋める。
違う……聞きたかったのは根本課長のことなんかじゃない。彼の本当の気持ちを知りたかったんだ。でも、それを聞いてしまったら、愁との関係が壊れてしまいそうで怖かった。
やっと恋人にれたのに、この幸せを手放すことなんてできない。
初めて本気で愛した人の傍に居たかったから……私はあえて都合の悪いことから目を逸らし、疑惑を胸の奥に押し込んだ。