アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
それから秘書課に戻り、同僚達と一緒にデスク周りの片付けをしていると、自分のデスクの片付けを終えた栗山さんが笑顔で近付いてくる。
「お疲れ! 仕事、少しは慣れた?」
「う~ん……少しはね。でも、まだまだだよ」
苦笑しつつデスクの引き出しを閉めようとしたのだけれど、栗山さんが私のスーツの裾を掴みニヤリと笑う。
「で、八神常務とはどうなの? 仲良くやってる?」
その一言で思い出した。
「そう言えば……栗山さん、唯に八神常務が社長の養子になったってこと、話しちゃったんだね」
「あぁ、うん。高橋さんから電話があって、どうして八神常務の苗字が変わって常務になったんだって聞かれたから教えたよ」
その言葉に危機感を覚え、一応、根本課長に口止めされていることは口外しない方がいいのではとやんわり伝える。
他言無用の情報が、どこで山辺部長の仲間に漏れるか分からない。それが怖かったからで、栗山さんを責めるつもりはなかったのだが、何も知らない栗山さんは表情を硬くして視線を落とす。
「新田さんの言う通りかもしれない。高橋さんは同期で信用できる人だからつい喋っちゃったけど……今思えば、軽率だったかも」
「あ、いや、なんか偉そうに、ごめん」
「うぅん、私、秘書としてプロ意識が足りなかった。気を付けなきゃいけないね……」
淀みのない真っ直ぐな目でそんな風に言われるとなんだか後ろめたくなる。
元はと言えば、私が唯に八神常務の話しをしたからで、栗山さんは進んで唯に話したワケじゃない。悪いのは私だ。なのに生意気に栗山さんに意見なんかして、私の方こそプロ意識が足りなかった。