アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

「あ、唯だ……」


アプリを開きメッセージ読んで驚いた。なんと唯が東京に来てるらしい。慌てて電話をしてどういうことか訊ねると……


『昨日からこっちに居たんだ~』

「昨日? どうしてもっと早く知らせてくれなかったのよ?」

『だって、年末に紬のお母さんとコンビニでバッタリ会った時、正月は紬の所に行くって言ってたから邪魔しちゃ悪いと思って……でもね、東京に行こうと思ったのは昨日。前々から予定していたワケじゃないなら』


なんでも、昨日のお昼に栗山さんに電話をして喋っているうちに久しぶりに会いたいねって話しになり、そのまま勢いで東京に来てしまったそうだ。


「母さんね、今帰ったとこなの。私も唯に会いたい。どこに居るの?」

『今、栗山さんのマンション。紬も来れば?』


その後、栗山さんに電話を替わってもらいマンションの住所を聞いて電車で最寄りの駅に向かう。栗山さんのマンションは大通りに面した分かりやすい場所にあり、方向音痴の私でもすぐに見つけることができた。


三人で会うのは入社時の研修以来だ。あの頃はお互い若かったね~から始まり、懐かしくてつい時間を忘れて話し込んでしまった。


夕食で訪れたマンション近くのイタリアンのお店でも話は尽きない。名残惜しくて「帰りたくないな……」と呟くと、栗山さんが「新田さんも泊まっていけば?」とニッコリ笑う。


「えっ、いいの?」

「もちろんいいよ。新田さんを待ってる人が居なければ……だけどね」


考えてみれば、待ってる人なんて誰も居ない。翔馬は早紀さんの所に行ったし、愁は明日の夕方まで帰ってこない。

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