アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
「ヤダ、そんな人なんて居ないよ。栗山さんがいいなら、私も泊めてもらおうかな?」
「うん、そうしなよ。今度いつ三人で会えるか分からないし」
そんなワケで私も泊まることになり、帰る途中のコンビニでビールや缶酎ハイを大量に仕入れて栗山さんのマンションに戻った。
それ程広くない部屋に布団を敷き詰め、寝ころびながら他愛のない話しをしていると少し酔いが回った唯が、栗山さんに向かって彼氏は居るのかと聞く。
うわっ、それ聞いちゃマズいやつだ……
元木さんに不倫の話しを聞いていた私は焦ったが、何も知らない唯は容赦ない。苦笑いする栗山さんにすり寄り、ひつこく食い下がっている。
「……彼氏は居ないよ。でも、好きな人は居る……かな」
俯き気味に呟く栗山さんの横顔はどこか寂し気で、もうそのくらいにしてあげればいいのにと思っていたら、急に缶酎ハイを一気飲みした栗山さんが吹っ切れたように話し出す。
「彼とは、一度だけ……そういう関係になったんだけど、ちゃんと付き合ったワケじゃないの」
えっ? 付き合ってない? ってことは、私が山辺部長と会った日、イベント会場に居た栗山さんに電話を掛けてきたのは、彼じゃなかったってこと?
「きっと彼は私のことなんて好きじゃない。でも、私は今でも彼が好き。だから彼が喜ぶことをしてあげたいし、彼の力になりたいの」
健気な栗山さんの言葉に鼻の奥がツーンとして危うく泣きそうになった。そして栗山さんを茶化していた唯もトーンダウンして切なそうな顔でため息を漏らす。
「栗山さんって一途だね。でも、そんな状態、辛くない?」