アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
唯の質問に栗山さんは「……辛いよ」と苦しい胸の内を吐露したが、その直後、表情が一変。凛とした力強い瞳で私と唯を見つめ堂々と宣言した。
「私が彼の夢を叶えるの」
「栗山さんが彼の夢を?」
「そう、その夢を叶える手助けができたら、彼がまた私を見てくれるような気がして……」
そういうことか。栗山さんはその彼に振り向いてもらいたくて頑張っているんだ。
なんだか他人事とは思えず、栗山さんの手を取り励ましの言葉を掛けたのだけれど、彼女は私をジッと見て「新田さんはどうなの?」と遠慮気味に聞いてくる。
「えっ? 何が?」
「好きな人だよ。本社って割といい男居ると思うんだけど……気になってる人とか居ないの?」
「あ……」
自分の気持ちを正直に話してくれた栗山さんに嘘を付いていいものか真剣に悩んだ。
いけないと分かっていても、栗山さんになら本当のことを言ってもいいのではという思いが徐々に強くなっていく。
「……実は、黙ってたけど、好きな人居るんだよね」
でも、そう言い掛けた時、隣の唯が栗山さんに分からないように布団の下で私の腕をつねった。その痛みで我に返り、咄嗟に次の言葉を呑み込む。
唯のお陰で場の空気に流されそうになっていた気持ちをなんとか引き止めることができたが、栗山さんの食い付きはハンパない。
「ねぇ、好きな人って誰? もちろん会社の人だよね? そこまで言ったんだから教えてよ」
「あ、でも、まだそんなに喋ったことない人だから……」
「だったら私に任せて。仲を取り持ってあげる」
これはマズいことになった。
困り果てた私の頭に浮かんだのは、またしてもあの人物だった。