アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
「う……ん、大嶋専務のことが気になってて……」
いくら栗山さんでも、大嶋専務との仲を取り持つなんて、そんな大それたこと言わないだろう。
案の定、栗山さんのテンションが下がり、難しい顔で考え込んでいる。
「大嶋専務か……」
「あ、気にしないで。素敵な人だなぁって憧れてるだけで、本気で大嶋専務と付き合いたいとか、そんなこと思ってないから」
「そう……力になれなくてごめんね」
なんとか上手く誤魔化せたと安堵したのが、栗山さんがお風呂に入ると唯が怖い顔で私を睨み付けてきた。
「ったく、並木主任のこと誰にも言うなって言ったのは紬だよ」
「ごめん。栗山さんなら大丈夫かなって思っちゃって……」
「私も栗山さんは信用できると思う。でも、地方の研究所に居る私と違って栗山さんは本社に居るんだよ。並木主任のことを話せば、情報漏洩のことも説明しなきゃいけなくなる。そうなったら栗山さんも知らんぷりはできないでしょ?」
唯は、好きな人の夢を叶えようと頑張っている栗山さんを会社のゴタゴタに巻き込んで振り回すのは可哀想だとかなりご立腹だ。
「それと、もうひとつ……なんで大嶋専務が好きって言ったのよ?」
「なんでって、一番無難な人かなって思ったから……」
「もぉ~忘れたの? 栗山さんは以前、大嶋専務の秘書だったじゃない。栗山さんがその気になって『大嶋専務のことは良く知ってるから紹介する』なんて言い出したらどうしょうってハラハラしたよ~」
あぁっ! そうだった。栗山さん、大嶋専務の秘書だったんだ……