アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

現在、大嶋専務の秘書は元木さんだが、一年半ほど前までは、栗山さんが担当していた。


「前に並木主任がへき地に左遷されたと思って異動先を調べてもらおうと栗山さんに電話したことがあったじゃない。あの時にはもう、大嶋専務の秘書じゃなかったものね。で、今は誰を担当してるの?」

「あ、今は専属を離れて他の秘書課の人のフォローや、事務的な業務を担当してる。秘書課の社員の中じゃ主任の次に古いからね、まとめ役って感じかな。……それより八神常務のこと、いつまで並木主任って呼ぶつもり?」


唯が苦笑いして「……だね」と呟くと振り返り、用心深くバスルームの方を確認している。


「それで、その八神常務とはどうなってるの?」

「うん、一応、付き合っているような感じだけど、気になってることがあって……」


愁が根本課長を庇っている話しをすると唯も、そんな怪しい電話をしていたのなら疑うべきだと眉を吊り上げる。


やっぱり私の考えは間違っていなかった……そう確信した直後、なんと山辺部長からメールがきたんだ。


内容は、依頼されていた情報の催促。愁に言われた通り、アメリカの製薬会社、メディスンカンパニーが一番影響力のある会社だと返信すると、すぐに山辺部長から自信に満ち溢れたメールが届いた。


《後は私に任せて欲しい。必ず八神常務を失脚させてみせる》


「山辺部長、マジで会社を裏切るつもりなんだ……」


ドン引きする唯を横目に立ち上がり、部屋を出て階段の踊り場で愁に報告の電話をする。愁は『紬のお陰で上手くいきそうだ』と嬉しそうに声を弾ませていた。


もちろん私も愁の力になれて嬉しかったけど、同時に、情報漏洩の件が解決して私の利用価値が無くったらどうなるんだろうという不安が心に暗い影を落とす。

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