アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
――翌日、唯はお昼前の新幹線で東京を後にし、私もマンションに戻った。実家に行っていた愁も夕方には帰って来て残っていたおせちを食べながら、今後の話しをする。
「今朝早く山辺部長の件でメディスンカンパニーのCEOから連絡があったよ」
「えっ? もう接触があったの?」
「あぁ、山辺部長は、バイオコーポレーションを合同会社から外したいみたいだな」
山辺部長は、自分がバイオコーポレーションの社員だと名乗った上で、今回初めて医薬品業界に参入するバイオコーポレーションが合同会社の中心になり、なんの実績もない者をいきなり合同会社のトップに据えたことを無謀だと非難したそうだ。
つまり、つい最近まで研究者だった愁に経営者としての能力はない……そう言いたかったのだろう。
「まぁ確かに俺は経営者としては素人だからな。そこは反論しない。だが、今回立ち上げようとしている合同会社は、参加する全ての企業が意見を出し合い協力して経営を行うことになっている。決して俺のワンマン会社じゃない」
しかしメディスンカンパニーのCEOはそのことには触れず、山辺部長の指摘を受け入れ、合同会社の件は一旦、白紙に戻し検討し直すと伝えたそうだ。
「予定通りですね」
「あぁ、そうなんだが……」
事が順調に進んでいるのに、なぜか愁は浮かない顔をしている。
「何か他に不安要素でもあるんですか?」
「……うん、メディスンカンパニーのCEOから連絡をもらってからずっと考えていたんだが、山辺部長の狙いが変わってきたような気がしてな……」